携帯メール 配信サービスのココだけの話

どれもかわいい顔をして、サクランボは笑っていた。 「んだね。
サクランボはリンゴに似ていて、昼間は熱く湿気がなくて、夜は寒い方がいい。 このぐらいの山が、最適だくな」遠くを見ると、葉山が大きな姿で横たわっていた。
その左に、雪を被って、美しい裾野の山、月山が見える。 左にぐるりと回ると、白い壁は朝日連峰で、私の背後には蔵王山がある。
足元の草むらに、さかりを過ぎたワラビが群生していた。 もとが太いのは、良いわらびなのだろう。
その隣に、花の終えたカタクリの集落が小さく並んでいる。 約百坪の群生である。
僕は、カタクリの花が、ことのほか好きである。 世界中を旅して回っても、この花に勝るものはない。
桜は気丈で美しいが、カタクリは可憐で美しい。 折った花は、一時間でしおれてしまう。
都会やにごった空気にはなじまない。 満開の桜は日本中で見られるが、カタクリは北国の一部にしか咲かない。

うす紫の明るい花で、スミレをずっと大きくした感じである。 葉はスズランに似ている。
この花を見ていると、良い女を思い出すが、僕が探している女性とは、カタクリの花のような人では、ないのだろうか。 一陣の風がサァーッと吹き、追いかけるように、オニヤンマが相手を探して飛んでいった。
目を上げると、月山がある。 さっきまで頂上を包んでいた霧は、いつか消え、山肌がよく見えた。
気高くて、美しいアスピーテの山だ。 山形県の形は、人の横顔だが、月山はその口元にあたる。
人間の顔をした山形県を、ぐっと引き締めているのである。 「ガッサンは、きれいですな。

雲が晴れてきました」「良い山だねえ。 真夏にスキーもできるし、出羽神社があるのだね」こっそり一人でとってくじゃ、そろそろ行きますかな」帰りも同じように、四人は荷台に乗った。
小さな車のくせに速く走るので、車外に放り出されそうで、四人は必死でしがみついた。 目的を果たして満足したせいか、雑木林の深みも草花の美しさも、目に入らなかった。
それに、疲れも出ていた。 体は正直なものである。
倉庫に戻ると、パートの人達は、まだ箱詰作業をしていた。 平らに並べられた赤い宝石は、フタをされ、山積みにされていた。
「見事な粒ですね。 山の上では、いっぱいとらせていただき、良い体験をしました」僕は、Mさんの奥さんにお礼を言った。
「良かったス。 今年は陽当たりが良くて、甘味が濃くて。
いい味なのだ」老婆はうれしそうに笑いながら、お茶を入れてくれた。 Mさんは、そばで箱詰をしていた。
横で見ていると、二キロ入りの箱なのに、二。 五キロの実を入れていた。
フタをすると、機械の上に置き、ガシャリとひもをかける。 一キロ二千円としても、大変なサービスである。
「Oeさんのご招待で来ましてね。 我々四人も、同じ農家ですよ。

Oeさんには、いつもアパートや資産運用で世話になっていまして、今日はまたすばらしいサクランボ体験をしました。 ほんとに、感激していますワ」Mさんは、白髪の端正な顔をくずして、嬉しそうに話しかけた。
やわらかい話し方で、校長先生、というあだ名がある。 「そうですか。
Oeさんは、親孝行で評判なのですよ」と、老婆はお世辞を言った。 「いえ、いえ。
皆さんに助けられて、少しやっているだけです。 こんな所でほめられると、知らない人は本気にしますよ。
サクランボ代は、私が払いましょう。 皆さんには、おみやげとして一箱進呈しますよ。
あとは、好きなだけ頼んでください。 とにかく、全部の代金を、私が払っておきますから」僕は、無理に払おうとする地主さんを止めて、先に全代金を支払った。
後で一人一人精算すれば、簡単だ。 全部で十一個あったが、僕は後日請求しないであろうことは、自分でわかっていた。

「まあ、当社が利益を上げている限り、おごるのもいいさ」五人は、あいさつを終えて、外へ出た。 「今から走ると、K温泉には、五時頃着きますよ」「よかった。
あの岩風呂にたっぷりつかりたいなあ。 なんだか早く行きたくなった」「気が早いなあ、tsさんは、いつもこれだから、かなわないよ」「Hさん。
あんたの好きな肉もあるからさ。 ビールでぎゅっと一杯、やろうぜ」「はいはい、わかりました」Hさんが、参ったという顔をすると、二人は顔を見合わせて笑った。
あたりは、やっと夕やみが近づき、夕焼けが美しく出ていた。 顔を上げて山の上を見ると、さっきいた畑は、暗くなりかけていた。
右手の遠くを見ると、山の上に月山が見え、おだやかな黄金色に輝いていた。 僕の菜園には、ビワの木が植えてあり、六月末になると、実が熟してくる。
だいだい色というか、オレンジ色に近いというか、豊かな色だが、熟した実の色あいはもっとすばらしく、陶器がつく。 植物は、不思議な力を持っている。
ただ一本の木にすぎないのに、五月になると身体いっぱいに葉をつけ、新芽を伸ばし、ふところが深くなっていく。 毎日見ている木でありながら、三日も見ないと、全く変わっているのに気色に似ている。
オレンジが美人なら、ビワは絶世の美人と言うところだ。 澄んだ色というか、深みのある色というか、暖かい色である。

僕がビワを好きなのは、高貴だからである。 中国なら、黄色が皇帝の専属色だが、僕はビワ色の方が貴いと思う。
ビワは中国が原産で、日本にきて改良されたと言われるが、原産は丸い小型の実と言われる。 僕の畑の木は、大型ではないが、三十グラムの卵型だから、おそらく改良種にまちがいないだろう。
晩秋の頃は、何やら花が咲いたな、という程度であるが、五月になると急に実が大きくなる。 「パパ、ずいぶんなりましたよ。
この分じゃ、今年もたくさん食べられそうね」ビワが大好きな妻は、大きな眼をさらに大きくして、期待に胸をふくらませる。 「そうだね、たくさんなりそうだよ」「去年もなったし、今年も続けて豊作ね、ほかの木は二年続けてならないのに、ビワの木はサービスがいいわね」「きっと、性質が強いのだろう。
枝も結榊しなるしね。 竹のように柔軟性があるね」「房総は、ビワの名産地でしょ。
F市だって房総だから、土や風土が合っているのよ」「そうだよ、鋸南町に行ったときのビワは、大きかったな」僕は、大粒で香りの良いビワをごちそうになったのを思い出した。 「良い香りと甘い風味がいい。
ビワは小さいけど、かわいく上品だね。 どこか奥ゆかしい感じがするよ」「そう言えば、地主さんの所には、ビワがたくさんあるけど、誰も食べないね。
どうしてかしら。 熟したのは、とてもうまいのに」「きっと、面倒くさいのだろう。
肉はうすいし、種は大きいし、すぐ傷むからね」「昔は、よく食べたのよ。 今じゃ、食べないで、虫が食っているわよ」「不思議だね。

うまいのにねえ。 きっと、柿と同じで、食べにくいのだろうな。
種ばかりが目につくもの。 人間も恵まれると、難しいことをさけて、退化すると言われるだろう。
何でもある。 だから、食べにくい物は食わない。
歯が弱くなる。 身体が弱る。
脳も弱くなる。 TKビルのQさんもとらないし、フラワーハイツのiさんも手をつけないわね」「金持ちは食わない、という法則でもあるのかな。
不思議だね」ビワを食べて満足している二人には、他人の気持ちが理解できない。 水曜の休日には、僕達夫婦は農園で仕事をする。

夏の光に照らされながら、せっせと畑を耕す。 草をとり、種をまく。
一休みになると、熟したビワを取り、皮をむいて、口に入れる。

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